烏山の家

2世帯住宅(ほとんど同居型・注文住宅/実例2)

~天空光の家8/無垢材と自然素材の家(庫裏)~

この住宅は、世田谷にあるお寺の庫裡。若い住職とご家族の住まいです。
法的に木造とすることができないことからRC造とし、安定した温熱環境と建物の耐久性の向上といった観点からRC外断熱工法を採用した建物です。

敷地は、お寺の境内という条件にあって、
「外観と檀家さんが使用するスペースは本堂や周辺とのバランスをとったデザイン」
「家族のスペースはカントリー調」

といったことが求められたものです。

住まいの他に、応接室、法衣室といった部屋の他、奥様が華道を教えるための部屋もある家です。

内装や建具に使用する木はバーチ材を主として、レッドシダー、たも、桧、栗の無垢材、漆喰や珪藻土(ライムコート)といった壁材、
テラコッタやレンガ等をフローリング以外の床に使用した自然素材の家です。

既製品や石油化学製品の使用を極力少なくすることで
「これからの長い月日を共に過ごすことができる味わいと暖かみのある建築」
となることを期待した住まいです。

※タイトルの「天空光の家」というのは、当事務所が設計手法のひとつとしている
「日照条件の良くない敷地等において、屋根上部から下階或いは更にその下の階等に光を導くためのトップライト等を設けた家」のことです。

<外観>
道沿いには数多くのお寺や庫裡と共に一般住宅が建ち並び、近隣の人達の散歩道にもなっている、閑静で緑が豊かな地域です。
道に大きく枝を張り出した桜の木だけでなく、
「既存の樹木は可能な限り残すこと」
鉄筋コンクリート造であっても、
「周辺の木造による街並みの中に融合できるものとする」
「これからの環境・街並みづくりに寄与しうる建築にする」

ということを意図して形づくりました。

<住居>

<玄関廻り>
この建物には住居用玄関、檀家用玄関、華道教室用玄関と、3ヶ所の玄関があります。
住居用玄関はやや控えめな位置としながらも、他の玄関と庇の形状を合わせました。
玄関内部は、床・建具・家具はバーチ(カバザクラ)の無垢板、天井はレッドシダーの無垢材に
いずれもオイル仕上とし、壁はスイス漆喰をコテで塗って仕上げました。
写真上:無垢板で造った玄関扉※
写真下:玄関より階段を望む

<リビングダイニング(1階)>
これまで手がけた住宅の中でも特に高い天井高のリビングとダイニングです。
リビング(奥)とダイニング(手前)は雁行させることにより、繋がっていながらもそれぞれが独立性の高い場所としました。
薪ストーブの奥のリビングはその一部をアルコーブ状の場とし、木製の板張り天井とすることで、落ちつきのある場としました。
写真上:キッチンより正面のダイニングとリビングを望む(リビング手前は薪ストーブ、左手は南庭)※
写真下:アルコーブ状のリビングより木製窓(防火扉)越しに南庭を望む※

写真上:リビングの薪ストーブ前より高天井のダイニングを望む※
写真下:ダイニング見上げ(上部窓とトップライトは電動式)

ダイニング上部:右手は2階子供室の窓、左下は主寝室の窓、その間が書斎

<キッチン(1階)>
キッチンは、リビングやダイニングだけでなく、吹き抜け越しに2階の子供室や
主寝室、書斎とつながり、家族の気配が感じやすい場所としています。
写真上:ダイニングよりキッチンを望む(正面はパントリー)
写真下:タイル貼のキッチンカウンター(右手窓の先は南庭)

キッチンの奧はパントリー。パントリーからは、
道路と南庭をつなぐ外部通路の途中に出ることができるようにしています

<洋室(1階、華道教室)>
奥様が華道を教えるための水洗いができる床の部屋で、
独立した玄関と勝手口を設けた半円形の部屋です。
既存の桜の木の下にもぐり込ませるように造った場所で、天井に設けた
トップライトからはその桜の木を見上げることができるようにしました。
写真上:桜の木の下に設けた華道教室(天井はベイスギ白色塗装)※
写真下:華道教室のトップライト (ガラスの上に見上げる桜)

<洗面室・浴室(1階)>
室内の物干場と共に建物の南側に設けた洗面脱衣室です。
写真上:南に面する洗面・脱衣・洗濯室(正面は室内物干場)※
写真下:庭に面したタイル貼の浴室(左手は浴室TV)

<トイレ(1階)>
華道教室にきた生徒さんと共用のトイレは、洗面所とは独立させました。
洗面コーナーを設けたトイレ(洗面台はタイル貼)

<階段廻り>
家の中心部、住居用玄関の脇に設けた階段室です。
階段上部にはご主人の書斎コーナーを設けました。
写真上:庭からの光が降りそそぐ階段
写真下:
上階の書斎につながる階段

段板の手前(段鼻 )はバーチの無垢材、その奧はテラコッタタイル貼。
手摺はロートアイアンで製作しました。

<書斎(2階、階段上部)>
階段上部に設けた書斎です。
吹抜けを通じて下階のダイニングとつながる書斎で、この書斎の奧を主寝室としました。
階段上部の書斎コーナー

<主寝室(2階)>
リビングの吹抜けに面する主寝室です。主寝室の奧はウォークインクロゼット。
天井はレッドシダーの板貼、床や出入口ドア、クロゼットは全てバーチ材でつくりました。
トップライトを設けた主寝室(入り口側を望む、左手は造付クロゼット)

<子供室(2階)>
ダイニング上部の吹抜けに面する子供室です。
ロフトを設けると共に、いつでも2室に区切ることが可能な部屋としました。
2室に分けた際にも、双方の部屋が南面するように配置しています。
写真上:高天井の子供室 写真下:ロフト上からの見下げ※

<洋室(2階>
将来、お母様が一緒に住むことができるように設けた洋室です。

部屋の南側にはバルコニー、北側にはクロゼットを併設しました。
腰をかけた時の目線の高さに、道路側の桜を望む横長の窓が特徴的な部屋です。
写真上:南面バルコニー側 写真下:北側(右手は桜を望む横長窓)※

<トイレ(2階)>
2階のトイレは家族専用。水に強い栗の無垢板のカウンターに小さなボウルをはめ込みました。

<檀家関連部分>

<檀家用玄関>
境内に向かって建物から突き出す形に設けた檀家用玄関です。
住まいとは趣が異なり、和のテイストとした玄関です。
丸窓より境内を眺める檀家用玄関(建具・家具類はタモの無垢板)※

三和土は石英岩貼、床、上がり框、家具は全てタモの無垢材、オイル塗仕上、
天井はスプルスの板貼です。

<テーブルとベンチ>
床板や窓の額縁、下足棚等で使用している樹種と同じタモ材で造ったテーブルとベンチです。
無垢材を使用しながらも厚ぼったくなるのを避ける為、少しシャープなデザインとしたものです。
丸窓より眺める境内の景色

<法衣室(住職のための和室)>
住職の事務作業や着替えをする部屋です。
境内を見通す位置に大きな雪見障子付の窓を設け、その手前に事務作業用のカウンターを設けました。
窓の反対側は桐タンスの収納、正面はコピー機の格納場所です。
天井板と建具廻りはスプルス材、それ以外の造作材は桧で統一した和室です。
なお、仏壇棚とその下の地板は、旧建屋の地板として使用されていた
桧の無垢板を削り直して再利用したものです。

写真上:法衣室(正面は掘ごたつ状のパソコンカウンター)※
写真下:法衣室(正面左手にはコピー機を格納)※
今回の工事範囲の中で唯一の和室です。
この部屋だけ、少し色味のある漆喰をコテでラフに仕上げました。


<洋室(応接・会食室)>
檀家用玄関から既設の本堂に行く途中のスロープ脇に設けた洋室です。
畳に座るのがつらくなっている年配の方の利用が多いことから、椅子に座って応接・会食が可能なようにということが求められた部屋です。
写真上:南庭に面する洋室です(右手は床の間)
写真下:部屋の奥には採光と換気用のハイサイドライトを設けました
この部屋の壁はライムコートという無機質系の塗壁材です。
塗り厚は約8mm、その表面を掻き落としたもので、調湿性に優れた素材です。

<大テーブル>
この部屋のインテリアに使用している木は、窓も扉も全てタモ材です。
このテーブルはそれに合わせて設計・発注したタモの無垢板のテーブルです。
ロシアから2年程前に北海道に輸入されて寝かされていた木だそうで、目が詰まった素直な材でしたので反りにくく、クセのない、まさに「一生もの」以上といえるテーブルができました。

椅子はハンス・ウェグナーのエルボーチェアを設計事務所価格にて輸入、納品をしてもらいました。この椅子の木もタモ(アッシュ)材を選定しました。

<敷地内の景観>
今回の計画は、「敷地内の樹木をできるだけ切らない計画とする」と共に、境内の南側に建てることにより「建物が、境内を暗くすることがないように」ということにこだわったものです。
門より境内を望む※

<夕景>

建築データ

所在地
東京都世田谷区北烏山
主要用途
庫裏(部分共有型2世帯住宅)
構造・構法
RC造(壁式、外断熱工法)
基礎
鉄筋コンクリートべた基礎
規模
地上2階  敷地面積   2,519.09(763.4坪)
      建築面積  451.40
      延床面積  499.40(151.3坪、全体)
            223.71( 67.8坪、庫裏部分)
  
 庫裏1階 151.00㎡(45.8坪)、庫裏2階 72.71㎡(22.0坪)

工程
 基本計画 2010.11~2010.12
 基本設計 2011. 1~2011. 7
 実施設計 2011. 9~2012. 2
 施工者選定・申請期間 2012. 3~2012. 5
 工事期間 2012. 6~2012. 7(既設建屋解体)
      2012. 7~2013. 2(新築工事)
※お寺の行事等の都合により、設計~工事開始までの期間は通常よりやや長めのものになっています。

敷地条件
 第1種低層住居専用地域、準防火地域、第1種高度地区
 世田谷区西部地域地区計画、他
 道路幅員 5.2m、4m

外部仕上
 屋根:カラーステンレス鋼板 平葺
 軒樋:カラーステンレス鋼板
 外壁:アルセコ外断熱システム(ロックウール+特殊モルタル塗+左官仕上)
 開口部:アルミサッシュ(黒)、木製防火窓(マーヴィン)、木製建具(各所玄関扉)
 外構床:石英岩貼(玄関)、タイル貼(玄関・南庭)、コンクリート土間(駐車場廻り)
     イペ材デッキ組(2階物干場)、玉砂利敷込(その他)

内部仕上
<住居部分>
 玄関
  床:300角タイル貼、バーチ(カバザクラ)無垢フローリング
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:ウェスタンレッドシダー(ベイスギ)本実板貼
 リビング・ダイニング
  床:バーチ無垢フローリング(床暖房有)
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:PB AEP塗、ウェスタンレッドシダー本実板貼
 キッチン
  床:200角テラコッタタイル貼
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:PB AEP塗
 洋室(華道教室)
  床:200角テラコッタ手作りタイル貼
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:ウェスタンレッドシダー本実板貼
 水廻り諸室
  床:バーチ無垢フローリング
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:PB AEP塗
 階段
  段板:バーチ無垢板+テラコッタタイル貼
 洋室(2階)
  床:バーチ無垢フローリング
  壁:PB 織物調クロス貼
  天井:PB AEP塗
 子供室(2階)
  床:バーチ無垢フローリング
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:PB AEP塗
 主寝室(2階)
  床:バーチ無垢フローリング
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:ウェスタンレッドシダー本実板貼
 書斎コーナー(2階)
  床:バーチ無垢フローリング
  壁:PB カルクウォールこて塗
  天井:PB AEP塗

<檀家関連部分>
 檀家用玄関
  床:石英石貼、たも無垢フローリング
  壁:ライムコートこて塗 t:8mm、かき落とし仕上
  天井:スプルス本実板貼
  下足棚:たも無垢板、OS
 洋室(応接室)
  床:たも無垢フローリング
  壁:ライムコートこて塗 t:8mm、かき落とし仕上
  天井:PB AEP塗
  床の間:カシュー塗
 法衣室
  床:畳敷き
  地板:桧無垢板、白木用塗装
  壁:漆喰こて塗 t:3mm
  天井:スプルス本実板貼
  家具:桧無垢板(旧建屋の再利用品)、扉;桧練付フラッシュ

その他(家具等)
  キッチン、洗面台等:ウッドセッション
  レンジフード:YAMAZEN
  食洗機:AEG
  キッチンシンク・水栓:コーラー
  薪ストーブ:東京ストーブ
  床暖房:ユニード
  檀家用玄関・応接室製作家具:ソリウッド
  応接室椅子(ハンス・ウェグナー):ノルディックフォルム(OZONE)

このページに掲載した※印の写真は、写真家今村秀雄氏の撮影によるものです

2020年1月に、この住宅に関しての取材を受けました。
建築家が手がけた住宅に特化、魅力ある事例を発信しているという建築家ポータルサイト「KLASIC」という所からのお話でした。
「家が建つまでのストーリーや工夫した点」、「建て主の方とのやりとり」などを取り上げたいとの依頼を受けたものです。
以下は公開された取材記事です。ご興味のある方はご覧になってみてください↓
https://www.klasic.jp/construction/13243/