※2019年5月に私が建築家登録をしている建築家紹介センターというサイトを運営している方より「ビルトインガレージ」に関してのインタビューの依頼を受けました。
以下の文面は、このインタビュー記事の内容を再構成したものです。
<ビルトインガレージについて>
上記のインタビューのお話を頂き、まずは私がこれまで手がけた住宅でビルトインガレージを設けた実績がどのようになっているかを調べてみました。
ビルトインガレージとは、車やバイク等の駐車・格納スペースを建物内の一部に取り込み、シャッターやオーバードア等を設置して室内化したガレージ(車庫)の事です。
調べてみたところ、あくまでこちらが手がけた住宅の中だけのデータではありますが、全体の30%(弱)がビルトインガレージのある家で、そのほとんどがここ10年~12年に手がけたものだという事が分かりました。
東京近辺では車を持たない人が増えてきているようですので、それとは逆行する傾向といえるでしょう。
また、カーマニアがこの10年程で特に増えているとも思えません。
それからすると、「より利便性の高い家に住みたい」とか、「狭い敷地であっても駐車スペースを設けたい」というニーズが増えてきていることが主な要因かと思われるものです。
実際、こちらで手がけたビルトインガレージは建て主さんからのご要望あったものではありますが、
限られた面積の敷地にあって、建ぺい率や容積率といった観点から敷地を有効に活用する為に駐車スペースを建物内に取り込むようにしたケースも多いものです。
以下に、ビルトインガレージの一般論と共に、これまで手がけたビルトインガレージの工夫点やサイズ、出入口、法的な扱い、コスト、将来に対する考えといった事に関して記させて頂きます。
<ビルトインガレージのメリット・デメリットについて>
まずメリットに関しては、
・風雨が強い日でも車の出し入れ・人の乗り降りが簡単で、荷物の搬出入が楽。
・盗難の被害(防犯)や風雨から車が守られる。
・趣味の部屋、屋外用品の収納場所などとして使用が可能。
・狭い土地でも駐車スペースを確保することが可能。
・車好き、バイク好きの人にとっては常に車やバイクが身近な存在とできる。
といったことが挙げられます。
一方、デメリットとしては、
・主に玄関・アプローチ、その他の間取りや配置、構造計画に関する制約が多くなる。
・エンジン音、振動、排気ガスの臭い等、程度の差はあっても対策が必要となる。
・建屋としての工事費が必要となる。
といったことが挙げられます。
<ビルトインガレージの間取りで工夫している点>
まず第一には玄関との関係性です。
玄関やアプローチの雰囲気を壊さず、利便性の高いつながりを持たせることは毎回重視していることのひとつです。
次は、キッチンや食品庫等との関係性です。
買い物等、玄関に持ち込むよりもいわゆる勝手口から運び込んだ方が良い場合も多いものです。
上記の双方を両立できるケースもあれば、片方だけの時もありますが、ビルトインガレージを計画する上で最も時間をかけて検討すべきはこの機能的な動線計画とプランニングだと思っています。
話は逸れますが、私の事務所の設計作業の部屋はかつてビルトインガレージであった場所を改装して使用しています。
住宅は時の経過と共に求められるニーズが変わっていくもので、家族構成も変わることがあります。
私のようにガレージを仕事場にするケースもあれば、その他の居室にしたりすることもあるかと思います。
家へのニーズが変わった時に、まず手をつけやすいのがガレージでもあります。
ガレージ新設の計画時にはなかなかそこまでは考えることは少ないでしょうが、家の中の第3の部屋として、さまざまな可能性を考慮しておくこともガレージを造る際には必要だと思っています。
<ビルトインガレージのサイズについて>
これまで手掛けたビルトインガレージ(1台用)の内法寸法としては、間口は2.6~4.3m、奥行きは4.6~6.7mと、家によってかなり差があります。
この寸法は棚等を除いた車用のスペースの寸法ですが、想定する車種やガレージに対するご希望(自動車以外に停める物等)、その他の条件によるものです。
標準的な乗用車1台用のガレージとしては、2.6m×5.2mは確保する必要があると考えています。
下の写真の家は、シャッター付きのビルトインガレージの手前に縦列駐車形式でもう一台、車が置けるようにカーポートを設けた家です。
<ビルトインガレージのシャッターについて>
電動シャッターを使用することが最も多く、防火仕様とするか否かは法的な条件次第です。
防火仕様の場合、意匠的に非常に限定されたデザイン(色)の物しかないのには毎回悩まされています。
電動のオーバードアを使用するケースもありますが、この場合は室内の照明計画が難しくなったりと、ベストといえるスタイルや定番といえる形式がないため、毎回ご要望や諸条件により検討、打合せをしながら決めています。
<ビルトインガレージの建ぺい率について>
ビルトインガレージは壁で囲まれて屋根もありますので、建築基準法上、建築物として扱われます。
一般的な造り方の場合は建築面積に算入する必要があり、建ぺい率の制約を受けるもので、緩和規定はありません。
傾斜地等に建つ住宅等で、ガレージが地下階であれば建ぺい率の制限は受けません。
戸建ての敷地内なら、自由に駐車場やガレージを造ることが出来ると思っている方もおられますが、建ぺい率の点では制約が多いものです。
<ビルトインガレージの容積率緩和について>
自動車用車庫については、建築基準法上、その面積が延べ床面積の1/5までは床面積に含めなくてもよいとされています。
また地下に設ける場合は、容積率上も延べ床面積の1/3までは、地下の面積は算入しなくてもよいとされています。
下の写真は一見地上3階建てに見えますが、敷地が道路より高かったことから、地下1階(RC造)、地上2階(木造)建てとして計画した事例です。
シャッター奥のガレージは延床面積に不算入、シャッター手前のスペースは地下階の為、建築面積に不参入として建てた住宅です。
<ビルトインガレージの価格>
主要構造が木造かRC造か、或いは鉄骨造かで価格は変わってきます。
また、平屋のガレージか、2階建てや3階建ての住宅の1階に設けるのか、或いは地下階に設けるのか。これらによって建築に関わるコストは大きく変わってきます。
また、遮音や断熱、シャッター等の仕様をどの程度のグレードにするかによってもコストに影響します。
通常、木造2階建て住宅の1階部分に設けるのであれば50~60万円/坪で、RC造の地下階であれば100万円/坪はかかるものとなります。
<ビルトインガレージにかかる固定資産税について>
ビルトインガレージの固定資産税の評価額は、居室よりも低くなりますが、基本的にはかかります。
ガレージの大きさや自治体ごとに定められている規定によって、固定資産税の金額はさまざまのようです。評価員によっても変わることがあるようにも思っています。
また、ガレージの入口に電動シャッターがついている場合、ぜいたくな設備として固定資産税の評価対象となるケースもあるようです。
しかし建物全体から見ればその割合は大きくはないですし、何台も置く大きなガレージでなければ、年間で数千円から数万円といわれていますのですので、そのメリットからはあまり気にしなくても良いものと思っています。
<善福寺の家(広い庭とガレージの2世帯住宅)のガレージで工夫した点>
この家のガレージは、大型の乗用車と自転車2台を置き、外部で使用する用具類や冬タイヤ等、収納スペースを充分に設けることが建て主の方から受けたご要望でした。
ガレージは2階建ての住居部分とつながってはいますが、道路と住居の間に平屋のガレージとして計画したものです。
道路に面しては低層の建物としたかった事、エンジン音や振動、臭気等を住まいの部分に入れたくなかった事が主な理由です。
プランとしては、分離型の2世帯住宅にあって双方の世帯からこのガレージを使用できるようにした事、ガレージから北庭に通り抜けができるようにした事が大きな特徴です。
また変形した敷地形状に合わせて、道路に面する間口を広くとった台形状のガレージです。これにより道路に出る際の死角も少なくなるようになっています。
ガレージの有効間口は道路側が4.9mで奥は2.8m、奥行きは6.7mとこれまで手掛けたガレージの中では最も広いスペースのガレージで、ガレージ内に設けた壁面収納棚は間口3.7m、奥行き60センチという大きなものです。
木造のガレージですが、内壁は外壁と同様にモルタル塗の上ウレタン塗装とすることで火や水、衝撃にも強い仕上材、天井は不燃材、床は摩耗や油に強い駐車場専用の塗床仕上げとしています。壁や屋根の断熱は、居室と同じ仕様です。
また、ビルトインガレージは窓の少ない薄暗い場所になりがちですが、南北に窓を設けることで明るく自然な換気が可能なスペースとしました。
<その他(用途変更)...将来を考えておくこと>
家は時と共にそのニーズが変わっていくものです。
建てた時と10年後、20年後、30年後...
年代に応じて建て主さんの生活スタイルも少しずつ変化するでしょうし、家族構成も変化していくかとも思います。
私(中川)の住まいを事例をお話しますと、自宅を建てたのは24年前。まだ子供が生まれる前でした。
念願のビルトインガレージ(ガレージ部はRC造)のある家を建てましたが、バブル後に独立するにあたってこのガレージを自分のアトリエにすることになり、ガレージとして使用できたのは数年間だけでした。
できるだけコストを抑えて仕事場に改修したのですが、このときに思ったのは、
「断熱や窓、設備面で将来への対応のしやすさをもう少し考えておくべきだった」という事でした。
幸い、コンクリートの土間の下には床面の結露防止のために断熱材を施工しておいた事、給排水設備やコンセントは設けていた事、ガス管を通していた事により、これらについては特に問題は生じませんでしたが、壁や屋根面は断熱は施工していませんでしたし、開放できる窓も設けていませんでした。
エアコンを設置するにあたっても、コンクリートの壁をコア抜きをする必要が生じるものでもありました。
ガレージを仕事場にするというのは特殊なケースかもしれませんが、その他の居室に用途を変えることは起こりえる事かと思います。
築後数年で、というのは将来設計の甘さを指摘されても仕方がないものですが、20年、30年後以降の家のあり方はなかなか想像や想定はできないものでしょう。
ガレージにしても、今でこそEV車対応を考えておく事が当然になってきましたが、20年前にはそのような事を考えることができた人はほぼ皆無だったと思います。
そのような経験もあって、私が手がける住宅のガレージを設計する際は「将来、ニーズが変化した場合」を考慮したり、その可能性や対応について建て主さんと話し合った上で検討、設計を進めるようにしています。
「ニーズの変化」に関してはもちろんガレージに限ったものではありませんが、非居室としていた所を居室に変えるのは難しいことが多いものです。
木造に比べてRC造の場合はなおさらです。
家の計画段階ではなかなか想像はできない事かとは思いますが、頭の片隅にでも入れておかれることをお勧めするものです。
上の写真は事務所へと改装したガレージの外観、下の写真は内観(入口部)です
<ビルトインガレージのある家の実例>
善福寺の家:住まいと道路との間をつなぐ形で設けた平屋のガレージがある家 →実例ページへ
田端の家:2世帯住宅の1階、玄関とつながる位置に設けたガレージがある家 →実例ページへ
大泉学園の家:戸建て住宅の玄関とつながる位置に設けたガレージがある家 →実例ページへ
府中の家:戸建て住宅の玄関の北側に平屋で設けたガレージがある家 →実例ページへ
八雲の家:戸建て住宅の北側、勝手口とつながる位置に設けたガレージがある家 →実例ページへ
市ヶ谷の家:RC造、3階建て住宅の玄関脇に設けたガレージがある家 →実例ページへ
新井薬師の家:RC造、3階建て住宅の玄関脇に設けたガレージがある家 →実例ページへ
目黒の家:RC+木造住宅の3階建て住宅の地下階に設けたガレージがある家